契約条件の交渉メールが、法的拘束力を持つ【契約】になるリスク

稟議も、決裁も、署名すらされていない『存在しないはずの契約』の縛りとは?


国際取引では、契約条件の交渉も契約書の締結もメールで済ませること常です。しかし、海外の取引相手と交渉をする中で、取引を見送らねばならない場合もあります。契約交渉に何年かけたとしても、当事者の一方が契約締結の前に取引を見送れば、取引の契約が存在するはずもなく、当然『存在しないはずの契約』に法的拘束力はありません。これが国内外の常識です。

しかし、この常識が国際的に重要な判例で揺らぎ始めています。

交渉経緯を記録したメールだけで、覚書などがなくとも、『契約書に署名はせずとも契約はあった』と取引を見送られたことを不満に訴えられてしまうリスクがあります。最悪の場合、【存在しないはずの契約】を契約交渉の電子記録(メール)から裁判所が再構築し、強制的に取引をさせられてしまう(若しくは違約金や損害賠償)という事態に成りかねません。【存在しないはずの契約】に縛られてしまうリスクは、M&A・ライセンス・ジョイントベンチャー・フランチャイズ・Eコマース・販売代理店・業務委託・不動産売買等の海外取引だけでなく、個人間の問題(例:相続争い)など幅広い分野に浸透している印象を受けます。(※覚書(Memorandum of Understanding/MOU)・表明書・基本合意書(Letter of Intent/LOI)・条件概要書(Term Sheet)は必要不可欠なものではありませんから、目的とリスクに照らし合わせて用いることが可能です。)

デューデリジェンスをする機会すら与えられず、そもそも契約する意思がないのにもかかわらず、稟議も決裁もされていない契約に理不尽に縛られてしまう。想定できる社内外リスクは、経済的にも精神的にも計り知れないものでしょう。

ワンポイント・アドバイス


リスクの回避法は、『時代遅れ』と言われる【報・連・相(ほう・れん・そう)】かも知れません。伝統的な仕事の基本に沿って、【上に報告し、稟議・決裁が通るまでは、交渉中の取引条件はそれ以下でもそれ以上でもない】と交渉メールに明示するだけでも、リスク管理の初歩とすることも出来ます。

『分かり切ったことをわざわざ書く?時間の無駄では?』と言われれば全くその通りですが、日本人の真面目さ・律義さ・謙虚さは国際的なものではないことを忘れないで下さい。米国・カナダ・EUと関係する海外取引だけでなく、【契約を軽んじる文化圏(その出身)】では特に留意すべきです。(※国際弁護士の多くは、海外でも日本人として行動するので気を配るべきでしょう。)

海外で訴えられても、国内から訴訟の阻止・無害化・妨害は可能です。

とは言え、契約交渉を始める前に訴訟リスクを軽減しておけば、ビジネスに専念できます。契約締結後の訴訟リスク対策は、相手に気付かれない様に契約書の中に仕込むことが肝心です。取引相手が契約を違反する場合も、自社が契約を違反せねばならなくなった場合も、対処し易くなります。(※海外で闘争せねばならないとしても、堂々と戦えます。)

リスクは抱えるものではなく、賢く付き合うもの


【存在しないはずの契約】に縛られるリスクは、双方が抱えるものです。契約交渉での力関係でリスクの天秤は揺れますし、取引相手にだけリスクを押し付けられる決定的な局面があるかも知れません。相手だけを縛るための伏線を張らねばなりませんが、海外進出・展開では効果的な交渉術になります。

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